南インド機織り産業の復興と貧困層女性の自立支援の仕組み

アーユルヴェーダ染め工房

1980年代に入り、中国から大量の機械織り織物がインドへ流入し、南インドの機織り産業は壊滅的な打撃を受けました。

それを受けて、1989年に南インドの機織り産業を守るために現地NGOは設立されました。

現地NGOでは、南インドの機織り産業と技術を守ると同時に、貧困層の女性たちの自立支援にも力を入れています。

インドでは、機織り職人たちの工賃は低く、搾取的な環境の中で貧困から抜け出せない人も多い。

特に地方では、まだまだ女性の地位が低く、夫のいない女性たちの自立は困難を極めます。

現地NGOは、貧困層の女性たちが機織りを通して自立していくためにSelf Help Group(SHG)というシステムを運営しています。

Self Help Group(SHG) とは?

アーユルヴェーダ染め工房

Self Help Group(SHG)とは、機織り職人たちの自立を助けるための貯蓄を管理する信用機関です。

SHGは貯蓄を管理すると同時に、貧困層の女性たちを助けるセーフティネットとしての役割も果たします。

まず、SHGでは、三年かけて機織り技術を女性たちに教え、手織り技術者を育てます。

主に、貧困層の女性を雇い入れる事で、仕事のない女性たちの自立を促す活動をしています。

彼女たちの多くは、DVやアルコール中毒の夫から逃れている女性、病気で働けない夫の代わりに家計を助ける女性、離婚したシングルマザーや子連れの未亡人たちです。

SHGは、6人ずつで構成された機織り職人グループからなり、毎月一定額を彼女達自身の工賃から集金し、集めたお金を管理しています。

機織り職人たちは、1日/1人最低10RSずつを稼ぎの中から貯蓄します。

こうしてグループで貯めたお金で糸を仕入れ、仕入れた糸でまた次の布を織ります。

職人たちの工賃や、貯金の管理、糸の仕入れや織り上げた布の在庫管理は、NGOの秘書が管理しています。

SHGのシステムのお蔭で、職人たちは雇い主に搾取されることなく、機織りに集中することができます。

一人では、自立が難しい女性達が、グループで集まって機織りをする事で、自分たちの力で生きて行く事をSHGはサポートしています。

機織りだけでなく、刺繍や縫製のSHGもできました。

現在では、70以上の村に、750以上のSHGができるまでに成長しました。

南インドの機織り

SHGの秘書の女性。彼女がSHGメンバーから集金した貯金や在庫の管理をしている。

機織り職人達の労働環境

インドでは、搾取的な労働環境の中で、低賃金で長時間労働を強いられている労働者がまだまだいます。

ayurclothの機織り職人達の労働環境は、どのようなものなのか?

アジア圏の一部の縫製工場では、工員たちを鍵のかかった室内に閉じ込め、安い工賃で長時間労働を強いているという酷い実態もあります。

SHGメンバーが働く、一つの機織り工房を取材することができました。

工房は小さく簡素なものですが、風通しが良く、ケララ州らしい緑に囲まれた環境にありました。

現地NGOでは、SHGメンバーたちの労働時間に、明確な基準を設けていました。

機織り職人たちの労働時間は、am9:00〜pm16:00まで。

間に、1時間の昼休憩が入ります。

1日/6時間の機織りで、だいたい10mの布を織ることができるそうです。

毎週日曜日は休日で、一ヶ月/25日勤務が基本。

機織りのような、同じ作業を長時間繰り返すことで出る独特の症状が職人たちに出ていないかどうか、SHGでは一年に1度、健康診断を職人たちに受診してもらうことにしています。

機織り職人たちは、過度な長時間労働を強いられることなく、NGOによって守られています。

機織り

織り機に糸をセットする

工房内は風通しも良く、窓からは緑が見えました。

健康に配慮された労働環境の中で、現地NGOに守られながら安心して仕事に励む機織り職人たちを見て、大変感銘を受けました。

私が扱いたいのは、自分が欲しいと思える良い物で、尚且つ、作り手の犠牲の上に成り立つものではないこと。

SHGでは、本当の意味での自立支援が、ビシネスとして成り立っていました。

→南インド工房の機織り職人にインタビュー 職人たちの労働環境を視察する。