我が家では、月に一度、お給料日にだけ活躍させる器があります。
特別な意味を持たせるため、イベントの時にしか使わない輪島塗の本膳漆器セットです。
お正月、誕生日、お給料日にしか出さないことで、これが出ると「お!今日はご馳走Dayなんだな。」とパブロフの犬のようにわかるわけです。
ハレとケで言うところの、ハレの日の器。
ともすれば単調になりがちな日々の食卓に、食器でメリハリをつけるようにしています。
お給料を稼いでくれることに対する感謝と労いの気持ちを、ご馳走を作ることで表しているつもりなんですが、まあ、本当の懐石料理のようにはいきませんな。
漆器のお陰で、普通のご飯も立派そうに見えるので助かってます。
旬の野菜や果物を意識して使ったり、いつもより多少手の込んだ料理にも挑戦することで、料理スキルも上がっていいことずくめです。
形から入るのも、ありです。
本膳料理・懐石料理・会席料理の違い
本格的な日本料理には、本膳、懐石、会席の3種類があります。
本膳料理
室町時代に始まった、日本料理の原点と言われる儀礼的な料理形式です。
和食の中で、最も格の高いおもてなしコース料理と言えます。
昔は冠婚葬祭の場で、本膳料理が出されました。
今でも旧家などでは、沢山の本膳漆器セットが蔵に使わないまましまってあるというお家もあるようです。
本来は器の並べ方、食べる順序などに、細かい作法や決まりごとがあります。
その堅苦しさゆえ、現代では本膳料理は廃れており、ほぼ会席料理に取って代わられています。
懐石料理
茶席で、お茶を出す前に出されるお料理です。
厳しい修行を積む禅僧が、懐に温めた石を入れて空腹を紛らわせたことが語源となっており、濃茶を美味しくいただくために、一時的に小腹を満たす軽い食事ということだそうです。が、結構ガッツリ量ありますよね。
私は、普通にお腹いっぱいになりました。
懐石は、さすが千利休の茶道から生まれた料理形式らしく、和食の粋を凝縮した、洗練された心意気が満載です。
懐石料理は「全部食べきること」「できたてを都度、出すこと」「季節感を伝えること」などが特徴。
飯→吸い物→向付→煮物椀→焼き物→強肴→箸洗→八寸→湯桶→香の物→菓子の順に出てくる。
懐石料理の作法は、茶道の流派によって異なります。
四つ椀という、入れ子になった重ねて仕舞えて、蓋も器として使える漆器セットや、杉八寸が使われます。
茶道らしく合理的で、無駄がない漆器セットです。
会席料理
俳人たちが句会の後で、楽しむ食事に端を発したと言われています。
お酒と会話を楽しむことが目的の料理形式です。
お酒を美味しくいただけるよう、前菜・煮物・刺身・焼き物などが先に出て、ご飯と汁物は一番最後に出てきます。
四つ椀を探す
外食で懐石料理をいただいて、四つ椀の合理性と扱いやすさにすっかり心奪われてしまいました。
四つ椀は入れ子になっていて、重ねて仕舞えるので場所をとらないし、蓋も器として使えるので無駄がありません。
木製の本物の漆塗りの漆器を買えば、修理しながら一生使えます。
一生使えるどころか、私の次の代も、その次の代もずっと使えるはず。
デザインも黒塗りを選べば、流行り廃れがなく、飽きがきません。
日本の物って本当に無駄がなく、考え抜かれていていいなぁと思いました。
蒔絵や朱塗りのものは、大げさになりすぎるし、趣味じゃないわ。
黒塗りの、ウレタン塗装ではない、本漆塗りの四つ椀が欲しくなり、探し始めました。
四つ椀というものは5客セットになっていて、セットで7万円前後が相場のようです。
樹脂製になるとぐっとお値段もお手軽になりますが、それではねぇ…。
味噌汁椀を買う時、偽物の漆器には懲りているので、本物以外に興味なし。
ちょっと高いけど、長く使える事を思えば、ボーナス月に清水の舞台から飛び降りるか?
気になるのは、うちは二人なのに、5客も要らないんだよなぁということ。
四つ椀に限らず、私は5客セットの食器やグラスが嫌いです。
使わないのに場所とるものって、好かんわぁ。
私にとって、家は家族で過ごすプライベートな空間なので、よほど親しい友人以外は、家に招くことはないし。
何より、一度に料理を出す場合、四つの器だけでは全然足りないということにも気が付きました。
外食でいただいた懐石料理は、順々に出てきたから食器が四つでも足りるけど、家庭で一度に料理を出す場合には四つ椀だけでは足りない。
これは致命的です。
というわけで、四つ椀はやめることにしました。
応量器に惹かれる
次に心惹かれたのは、応量器です。
応量器とは、禅僧が使う一人分の食器セットです。
応量器も入れ子になっていて、五つの器とスプーンとお箸がセットになっています。
一番大きいサイズの器は、丼物や、煮物を入れるのに普段使いにも活用できそうです。
何より入れ子にして重ねた状態が、コンパクトで、無駄がなくて、美しい!
ミニマムな美を感じます。
こういうの、小さい頃から大好き。
私が子供の頃に応量器のこと知ってたら、絶対欲しがったはず。
子供ができて、その子が一人暮らしすることになったら、こういうのお祝いに持たせたいわぁ。
一人暮らしの応量器、かっこよろしいわぁ。
応量器はお椀の縁が分厚く丸く、少々の事では欠けや小当たりができそうにありません。
丈夫そうなのも気に入りました。
木製の漆塗りのものが、一人分1セットで4万円弱が相場のようです。
これなら二人分だけ購入できるし、スペースも取らないし、いいね!
木目が出てない、ツルツルタイプの黒塗りがいいなと思いました。
結局、応量器は購入に至らなかったのですが、今でも心惹かれてます。
これで毎日のご飯を食べたら、嬉しいだろうなぁ。
心を残しつつ購入を見送った理由は、応量器は日常使いの器過ぎるため。
日常使いの器なら既にある程度揃っているし、日常では和食以外に、洋食、中華、インド料理、韓国料理も食べます。
応量器は和食以外の、スプーンやフォークで食べる料理には合わないので、今回は購入を見送りました。
今回はハレの日用の特別感のある器を求めているので、応量器は素敵だけど見送ります。
それでもやっぱり今でも素敵と思ってしまう、応量器です。
100年前の本膳漆器セットと出会う
最終的に購入したのは、中古の本膳漆器セットです。
木箱入りで、大正時代のもののようです。かなり古いものですね。
どこかの、旧家の蔵出し品でしょうか。
木箱に号数が書かれています。
昔は地方のお金持ちの家に、このような本膳漆器セットがたくさんあって、冠婚葬祭の時は皆が集まってお膳を並べて、お料理をいただいたのでしょうね。
時代を経て、今、私のところへ来てくれた漆器たち。
今までどんな景色を見てきたのか。
戦争も乗り越えて残ってくれた、私より長生きな漆器。
感慨深いものがあります。
よう来て下さったな。
大事にさせてもらいます。
四人分の漆器セット。お揃いのお箸も付いています。
高足膳は買いませんでした。
必要ないから。
代わりに、黒塗りのトレイを買いました。
トレイは5枚セットでしか売られてなかったので、仕方なくセットで購入。
こういうの、バラ売りして欲しいわ。
トレイに関しては、漆塗りに拘らず、値段とサイズ重視で購入したので安かった。
口をつけるものではないので、使いやすさと丈夫さ重視。
これが、一人前セット一式。
お酒の杯も付いている。
本膳と二の膳の分も数があるのか、トレイに全ては収まらない。
これくらいの数がないと品数を並べきれないので、やはり四つ椀ではなく、こちらを選んで正解でした。
蓋付きの漆器は二つだけ、煮物椀と汁椀のみ。
この二つは、重ねられるけど、重ねてしまいづらい作りになっていました。
しまう時はこんな感じになります。
6枚の器と、蓋付き汁椀と蓋付き煮物椀。これで一人前1セット。
実際に使ってみると、一人前セット分の器だけでは足りませんでした。
なので、四人前セットを買ってちょうど良かった。
足りない時は、他のセットの分を動員しております。
100年前の漆器セットなので、新品同様とはいきませんが、そのままでも十分使える綺麗な状態です。
一部の漆器は塗り直し、修理がされているため状態が良いようです。
やはり本物の木製漆塗り漆器はいいですね。
逆に古いものの方が、厚みがあって、現代の物より木がしっかりしているように思います。
飯碗なんか、上げ底か?と思えるくらい木に厚みがありますよ。
多少の色あせはありますが、私の代の間は修理しなくても使い続けられそうです。
自分が生きている間は大切に使って、また次に繋げていきたいと思います。
因みに漆器セットは立派なものを手に入れましたが、お料理の方は全く本膳でも懐石でもありません。
最初は多少、意識してやろうとしてみたのですが、決まり事が多すぎて無理です。
決まり通りに、やれ向付だ、焼き物だ、香の物だと作れるか。
材料揃えるのも大変だし、堅苦しいわ。
美味しかったら、それでいいだろ。
というわけで、決まりは無視して、うちなりの季節のご馳走を盛ることでよしとしてます。
器が立派なだけで、それはそれなりに見えますね。
外食しなくても、素敵な漆器セットのお陰で、うちご飯でそれなりの雰囲気が楽しめるようになりました。
漆器セット、買って良かった。
大切にします。
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