Dr.K.Rajanは、現地NGOの立ち上げメンバーである、Kuzhivila Familyの代表です。
Kuzhivila Familyは、南インドのTravancore王朝付きのアーユルヴェーダ医師の家系で、その昔、王族たちの健康を守るためにアーユルヴェーダ染めを考案しました。
アーユルヴェーダとは、インドの伝統医学で、アーユルヴェーダ染めとは、医学の知識に基づいて様々な種類のハーブやスパイスを調合した植物染めの技法です。
伝統的なアーユルヴェーダ染めの継承者でもあるDr.K.Rajanは、先祖から伝えられた化学処理を一切使わない技法を守り伝えるため、オーガニックコットンを植物の力だけで、漂白から染め、仕上げ工程までを行っています。
政府公認アーユルヴェーダ医師でもあるDr.K.Rajanは、アーユルヴェーダ染め工房のChief Ayurveda dyeing technicianを務めています。
今回は、NGO立ち上げの切っ掛けから、伝統的なアーユルヴェーダ染めを守る活動、アーユルヴェーダ染めの現状まで、幅広くお話しを伺うことができました。
目次
NGO立ち上げの切っ掛け
①NGOを立ち上げた切っ掛けを教えて下さい。
1980年代、インドに中国から大量の安価な機械織り化学繊維生地が流入するようになりました。
そのため、ケララ州の手織物業界は、壊滅的な打撃を受け、絶滅の危機に瀕しました。
機織り職人たちは、機織りだけでは生計が立てられなくなり、次々と職を離れて行きました。
この状況を打開するため、私たちは、インド政府と日本政府から資金援助を得て、1989年に機織り職人の自活を目指すNGOを立ち上げました。
設立当初は、24人の若手織物業界のグループから始めました。
②先祖代々続く、アーユルヴェーダ・ドクターの家系だそうですね。
私たち兄弟の先祖である、Ayyappan Vaidyarは、南インドのTravancore王室専属のアーユルヴェーダ医師でした。
王族たちの健康を守るため、私たちの先祖はアーユルヴェーダ染めを考案し、王族たちの衣服や寝具などにアーユルヴェーダ染めを使いました。
王族が住む住居にも、壁面にハーブを練り込むなど、アーユルヴェーダの知識を取り入れていました。
アーユルヴェーダ染めの技法は、私たちの代まで秘伝として世襲されて来ました。
私たち兄弟は、この伝統的なアーユルヴェーダ染めの技法を使い、ケララの機織り産業を盛り立てる事を思い付きました。
機織り職人たちが手織りした布を、私たちが秘伝のアーユルヴェーダ染め技法で染める。
唯一無二の商品を生み出す事で、手織り生地に付加価値をつける事ができると考えたのです。
インド政府から贈られた、政府公認アーユルヴェーダ染工房の明石の石碑
伝統的なアーユルヴェーダ染めとは?
③アーユルヴェーダ・ドクターとしての知識を、どのように生地の染色技術に活かされていますか?
私たちが受け継いだアーユルヴェーダ染めの技法は、一色の布を染める際、40〜60種類以上の薬草やスパイスを使います。
薬草やスパイスには、それぞれ効能があり、アーユルヴェーダの知識を使って配合を調整します。
例えば、ターメリックは肌を美しくし、解毒作用と若返りの効能があります。
トゥルシーは、不眠症と免疫強化に効果的なハーブです。
私たちが布を染める時、どのような色に発色させるか考えると同時に、どのハーブの効能を全面的に引き出すかを考えます。
それによって、メインにするハーブを決定し、次にメイン・ハーブの効能をサポートするハーブやスパイスの配合を調整します。
アーユルヴェーダ染めに使われる様々なハーブたち。40〜60種類以上のハーブを調合し、布を染める。
④化学染料を全く使わず、染色されているそうですね。
私たちは、先祖から受け継いだ、伝統的なアーユルヴェーダ染め技法そのまま、現代まで継承しています。
昔の染めでは、化学的なものはありませんでしたので、今でもその技法のまま、化学処理は一切していません。
例えば、アロエベラなど20種類以上の薬草の煮出し液に、生地や糸を浸すことで、精錬・漂白を行います。
インド国内顧客向け製品には、牛尿(ゴドラム)を使うこともありますが、海外顧客向け製品には牛尿は使いません。
牛尿は非常に薬効があり、良いものなんです。
求められれば、海外顧客向け製品にも牛尿を使うことができますよ。
染める生地や薬草によって、煮出し液の配合は異なります。
煮出し液から取り出した記事は、直射日光に晒すことで、漂白のプロセスは完了します。
アロエベラ・ブリーチと呼ばれる、無化学処理の漂白工程
媒染のプロセスでは、色によって配合するハーブの数は異なりますが、約40種類のハーブと鉄分を含む粘土をブレンドして、媒染剤として使用します。
ハーブをそのまま使用するだけでなく、天然エッセンシャルオイルとして抽出したものも配合します。
このように、私たちが受け継いできた伝統的なアーユルヴェーダ染め技法では、化学染料を全く使用せず、染色することが可能です。
こうして染めあがった記事は、植物の薬効をそのまま移した薬布として、Travancore王朝時代、王族たちの健康管理に役立てられてきました。
私たちは、ケララ州の機織り産業を盛り立てると同時に、私たち一族のアーユルヴェーダ染め技法を現代に活かせることに、喜びを感じています。
私たちNGOの立ち上げに多大な協力をしてくれた、日本政府や日本の皆様には、常に感謝の気持ちがあり、私たちは日本という国にとても親近感を持っています。
現代日本では、アトピー性皮膚炎などの症状に苦しむ子供たちが増えていると聞きました。
私たちのアーユルヴェーダ染め生地が、皮膚病に苦しむ日本の子供達のため、少しでも役立ってくれるなら、それは私たちにとって、とても嬉しい事です。
ケララ州の機織り産業を守る仕組み作り
⑤あなた方のミッションは、ケララ州の機織り職人たちに雇用を提供する事により、機織り職人の生活水準を守りながら、伝統的な手織り技術を後世に継承させる事だと伺いました。そのために、どのような活動をされていますか?
手織り職人の工賃は、インド全域で低く、職人たちは未だ、貧困に苦しんでいます。
私たちは、彼らに通常の2倍以上の工賃を支払っています。
それでも職人たちの生活は、楽なものではありません。
また激減した手織り技術者を増やし、技術を継承していくため、私たちはSelf Help Group(SHG)というシステムを作りました。
SHGでは、3年かけて手織り技術を教え、手織り技術者たちを育てています。
主に、貧困層の女性を雇うことで、彼女たちの自立を促す活動をしています。
彼女たちの多くは、DVやアルコール中毒の夫から逃れている女性、病気で働けない夫の代わりに働く女性、子連れの未亡人、離婚したシングル・マザーたちです。
オーガニックコットン・ヨガマットを織るSHGの女性
インドでは、まだまだ女性の社会的地位が低く、特に夫のいない女性たちの自立は困難を極めます。
SHGは、6人ずつの機織りグループからなり、毎月一定額を彼女たち自身の工賃から集金し、集めたお金を管理しています。
貯めたお金で、次の機織りのための糸を仕入れます。
1人では自立が難しい女性たちが、グループで機織りをすることで、自分たちの力で生きて行くことをサポートしています。
現在では、70以上の村に、750以上のSHGができるまでに成長しました。
インドの綿花農家を守るために
⑥インドでは、綿花栽培のために使われる、農薬汚染による土壌汚染が深刻化していますね。無農薬の綿花をどこから仕入れていますか?
私たちNGOの活動の一つに、綿花農家から適正価格で無農薬コットンを仕入れることで、インドの綿花農家の生活向上を目指すというものがあります。
オーガニック認証には拘らず、自分たちの足で現地へ行き、厳選した綿花農家から仕入れた無農薬コットンの身を使用しています。
オーガニック認証に拘らない理由は、オーガニックコットン認証機関が、綿花農家に対して高額な認証料を求めるのに対し、綿花の買取価格が低すぎるためです。
そのため、インドの綿花農家の生活は、大変厳しいものとなり、自殺者まで出ているのが現状です。
私たちが提携している綿花農家は、ケララ州と北インドの厳選した無農薬綿花農家です。
厳選した綿花農家から仕入れている、無農薬綿花のみを使用している
アーユルヴェーダ染めに使われる薬草について
⑦アーユルヴェーダ染めでは、染色に40〜60種類の薬草やスパイスが使われるそうですね。
薬草やスパイスは、どこから仕入れていますか?
伝統的なアーユルヴェーダ染め技法では、様々な種類の薬草やスパイスを使用します。
例えば、ターメリック一つとっても、20種類以上のターメリックがあります。
鋭い質を持ったターメリック、穏やかな質のターメリック。
同じハーブでも、生葉を使用することもあれば、ドライハーブを使用することもあります。
植物の根をパウダー状にしたものも使います。
ケララ州は、水と緑豊かなハーブの宝庫です。
私たちのアーユルヴェーダ染めは、ケララ州以外の土地では成り立ちません。
特に、私たちの工房の周辺10ヘクタールは、オーガニック・エリアとしてインド政府から保護されています。
薬草の多くは、私たちの工房周辺と、工房から20㎞離れた場所にある、ハーブの森から採取されます。
このハーブの森から、約200種類のフレッシュなハーブ・樹皮・木の根を採取し、染色に使用しています。
フレッシュなハーブの生葉をたっぷりと使う伝統的なアーユルヴェーダ染めが、ケララ州以外で成り立たないのは、そういうことです。
薬草とスパイスの90%はケララ州から、残りの10%はケララ以外のインド国内から調達しています。
アーユルヴェーダ染め工房から20㎞にある、ハーブの森で収穫
先祖から受け継いだアーユルヴェーダ染めを守るために
⑧ここまで完全100%オーガニックな布は、他では見たことがありません。
あなた方が、この事業を続けるモチベーションはどこから来るのでしょうか?
私たちNGOは、ケララ州の機織り産業を復興させるために設立されました。
それは、私たちの仲間である織物業者たちと共同で行うものです。
一方で、私たちKuzhivila Familyは、先祖から受け継いできた伝統的なアーユルヴェーダ染め技法を、正しく後世に継承していきたいという、強い使命感を持っています。
近年では、私たちのアーユルヴェーダ染め技法を模倣した、偽物のアーユルヴェーダ染め製品を扱う業者が出てきました。
私たちNGOは、設立当初、衰退するケララの機織り産業を復活させるために戦い、搾取される綿花農家たちをサポートするために戦ってきました。
今、私たちは、伝統的なアーユルヴェーダ染めを守るため、偽物と戦っています。
私たちファミリーは、先祖が築き上げた伝統的なアーユルヴェーダ染め技法を守ることを、何より大切にしています。
伝統的なアーユルヴェーダ染め技法を守る、Kuzhivila Family三兄弟
Ayurvastra(アーユルヴァストラ)ブランドの現状とは?
⑨偽物のアーユルヴェーダ染め製品を扱う業者が出てきているとのことですが、あなた方の製品とどのように違うのでしょうか?
偽物のアーユルヴェーダ染め製品を販売している会社は、主に2社あります。
一つはN社、一つはK商社です。
2社共に、元々は私たちの顧客でした。
N社は、私たちの生地で作ったTシャツや洋服を販売するメーカーでした。
K商社は、私たちの生地やベッドシーツ、ヨガマットなどを、海外顧客に卸していました。
5年以上前から、彼らとは取引を終了しています。
理由は、彼らが私たちのWebsiteから、アーユルヴェーダ染め工程の文章や写真を無断流用し、Ayurvastra(アーユルヴァストラ)の名を語って、偽物を販売するようになったからです。
Ayurvastra(アーユルヴァストラ)は、私たちが作ったアーユルヴェーダ染めブランドなのですが、彼らは無断でインターネット上でAyurvastra(アーユルヴァストラ)の名を語り、いろいろな染め工房に私たちの製品と似せた染め方をした偽物をAyurvastra(アーユルヴァストラ)の製品として販売するようになりました。
K商社は、タミル・ナドゥ州に、自身の小さな染め工房を設立しました。
この工房では、一部の製品を染色し、自分たちでカバーできない製品は、他の小さな工房に依頼しているようです。
彼らの製品と、私たちの製品がどのように違うかについてですが、まず、伝統的な手法でアーユルヴェーダ染めを行おうとする場合、ケララ州以外の地域では成り立ちません。
ケララ州以外の地域では、フレッシュなハーブや汚染されていない自然の沢水が手に入らないからです。
私たちは、インド政府公認アーユルヴェーダ染め工房のため、工房周辺の自然環境を徹底的に保護されています。
タミル・ナドゥ州は工場地域も多く、水の汚染の問題もあります。
伝統的なアーユルヴェーダ染めでは、薬草の力を発揮させるため、消毒されていない自然の沢水を使うことが大変重要な役割を果たします。
例えば、インディゴ染めでは、インディゴの生葉や花びらを自然の沢水と合わせ、土壷の中で静かに安置します。
沢水の酵素と、生のインディゴが反応して発酵が進み、半年以上かけてインディゴ染め液が出来上がります。
K商社の工房では、このような手法の知識がなく、またタミル・ナドゥ州では、自然の沢水を使える環境にないため、外注で別の染め工房でインディゴ染めをしていますが、そこでは手軽なインディゴ・ケークスを使用しています。
インディゴ・ケークスを使用すれば、短期間でインディゴ染め液を作ることができますが、それでは十分な薬効のあるインディゴ染め生地に仕上げることができません。
このように、見かけは似せることができても、実際に染め上がる生地の薬効や、使われているハーブの種類や質は、全く別物となります。
アーユルヴェーダ染めの技法は、私たち一族が世襲しているもので、簡単に模倣できるものではありません。
アーユルヴェーダ染めとは何かを知って頂くために、ごく一部の染色プロセスは公開していますが、詳細な染色プロセスは、私たち一族が世襲して守っていく秘伝です。
染色工程は、私たちの工房内のみで行っており、外の染色工房へ外注することはありません。
私たちは工房内の環境造りにも徹底的に拘っています。
まず、アーユルヴェーダ染め工房の建物自体を、アーユルヴェーダの知識を活かして建てました。
例えば、工房の壁は、周辺の土や灰にハーブを混ぜて作ったレンガで作りました。
工房内で使う備品、例えば薬草やスパイスを保管するのは天然の土壷です。
ケミカルなものは、一切排除しています。
ハーブやスパイスが練りこまれたアーユルヴェーダ染め工房の壁
化学的なものを一切使わないアーユルヴェーダ染めの手法で染色した生地は、化学染めと違って強く鮮やかな色を作ることはできません。
また、既製品を染めることも私たちはしません。
機械織り生地を使った既製品は、例えオーガニックコットンを謳っていても、生地の処理段階で何らかの薬剤を使っています。
そのような既製品を、私たちのアーユルヴェーダ染め技法で染めることはできないのです。
問題は、一部の製品を、N社やK商社が、私たちの目の届かないところで、私たちが管轄するSHGの機織り工房へ発注していることです。
例えば、ヨガマットは、一つのSHGの工房で糸を紡ぎ、紡いだ糸を私たちの工房で染め、別のSHGの工房で機織りし、ヨガマットが仕上がります。
N社とK商社は、私たちの目を盗み、直接SHGの工房からヨガマットを仕入れることがあります。
このような製品は、弊社と同じ製品となります。
私たちはSHGを機能させ、彼らの自立を支援していますが、横から発注しているN社とK商社には、機織り職人たちを守る目的はありません。
私たちは、SHGの自立支援が目的のため、N社とK商社の発注をSHGの工房が受けることについては、黙認しています。
あくまでも、私たちの目的は、機織り職人の自立支援にあります。
生地については、K社は一部の生地を、私たちの卸先から又買いし、自社製品として販売しています。
このように、私たちのアーユルヴェーダ染め製品は、本物と偽物が混在したまま出回る状態になっています。
NGO設立当初、私たちはAyurvastra(アーユルヴァストラ)というブランドを立ち上げました。
現在、私たちはAyurvastra(アーユルヴァストラ)の名前を使うことを止めています。
理由はK商社が、Ayurvastra(アーユルヴァストラ)を名乗り、私たち一族が守ってきた伝統的なアーユルヴェーダ染めでない製品を販売するようになったからです。
Ayurvastra(アーユルヴァストラ)は、南インドの手織り産業を守るため、私たちNGOが手織りの生地にアーユルヴェーダ染めを施すことで付加価値をつけた製品を販売するためのブランドでした。
彼らは手織りでない機械織りの生地を、模倣したアーユルヴェーダ染めで販売しています。
ケララ州の機織り産業を守る使命も、アーユルヴェーダ染めを守る使命も彼らにはありません。
私たちが作り上げたAyurvastra(アーユルヴァストラ)のブランドは、志の違うところで悪用されてしまいました。
私たちはN社とK商社の所業について、インド政府に申し立て申請しました。
K商社は、Ayurvastra(アーユルヴァストラ)の名を使えないはずですが、インターネット上で相変わらず海外顧客に向けてその名を使い続けています。
そのため、現在、私たちは、自分たちの立ち上げたブランドであるAyurvastra(アーユルヴァストラ)を名乗ることは止めています。
この状況を、私たちは強制的に止めようとするのではなく、自分たちが伝統的なアーユルヴェーダ染め技法で作った製品を販売し続けることに意識を集中することで、いずれ打開できると考えています。
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