ayurclothのアーユルヴェーダ染め布工房は、南インドの機織り産業を守る活動をしているNGO団体でもあります。
現地NGOが、具体的にどのような活動をしているのか、立ち上げメンバーのKuzhivila三兄弟にお話しを伺いました。
現地NGO立ち上げのきっかけ
南インドケララ州は、機織り産業が盛んな地域でした。
全盛期には、30万人以上の手織り職人たちが、機織りだけで自活していました。
ところが1980年代入ると、中国からインドへ、大量の安価な機械織り織物が流入するようになります。
以降、ケララ州の手織り産業はみるみる衰退し、昨今では機織りだけで生計を立てることは非常に難しくなりました。
それに伴って、機織り職人の数も、減少の一途を辿ります。
この状況を打開するため、1989年に24人の若手の織物業者たちが集結し、ケララ州の機織り産業と文化を守るためのNGOを設立しました。
インド全域において、手織り職人の工賃は非常に低く、職人たちは搾取的な状況のもとで働いています。
現地NGOは、まず第一に機織り職人の自活と地位向上を目指し、職人たちに通常の2倍の工賃を支払っています。
機織り職人の働きに正当な対価の工賃を支払うことで、職人たちの自活を促し、機織り産業の復興を目指しています。
工房内では、昔ながらの木製の機織り機が使われていた。
現地NGOが掲げる4つのミッション
①機織り職人に雇用を与え、適正な工賃を支払うことで、ケララ州の機織り職人の生活水準を守ること
②ケララ州の機織り文化と技術を守り、次世代へ継承していくこと
③女性が搾取的な労働環境から自立し、債務のサイクルから脱することを可能にするための自立支援プログラムを機能させること
④綿花農家から適正価格で無農薬綿花を仕入れることで、インドの綿花農家の生活向上を目指すこと
アーユルヴェーダ染めヨガマットを手織りする女性
これらのミッションを遂行するため、具体的にどんな活動をしているのか?
何度も工房に足を運び、機織り職人たちにも直接インタビューして話しを聞いた私は、現地NGOの活動に非常に感銘を受けました。
一番、共感したのは、彼らの活動が、機織り職人や貧困女性の自立支援に成功しているという点です。
寄附やボランティアも素晴らしい支援だとは思いますが、本当の意味で助けとなるのは、当事者たちが自活できるよう助けることです。
機織り職人に正当な金額の工賃を支払うこと、また、機織り技術を一から教えることで、機織り職人たちが継続的に機織りで自活できるシステムを作っていました。
NGOでは3年かけて、まずは手織り技術を指導します。
主に、貧困層の女性を雇い入れることで、女性たちの自立を促す活動をしています。
彼女たちの多くは、DVやアルコール中毒の夫から逃れている女性、子連れの未亡人、離婚したシングルマザーたちです。
夫が体が弱く生活するに十分な給料を得られないため、夫の給料だけでは子供を養えない家庭の女性たちもいました。
インドではまだまだ女性の社会的地位が低く、特に地方では夫のいない女性たちの自立は困難を極めます。
立場の弱い貧困層の女性たちに機織り技術を教え、彼女たちが低賃金で働かされることのないよう守りつつ、自活できる道筋をつけることに成功していました。
https://home.ayurcloth.com/布工房のこと/
オーガニックコットンとは何なのか? インドの綿花農家の現状
現地NGOは、手織りする布の原料である、綿花の仕入れにも強い拘りを持っています。
厳選した綿花農家から、適正価格で無農薬綿花を継続的に仕入れることで、インドの綿花農家の生活向上を目指すことをミッションの一つとしているからです。
厳選した綿花農家から仕入れた、100%無農薬の綿花
オーガニック認証には拘らず、自分たちの足で現地へ出向き、厳選した綿花農家から仕入れた100%無農薬の綿花を紡ぎ、糸にして手織りします。
オーガニック認証に拘らない理由は、オーガニック認証機関が綿花農家に対して高額な認証料を求めるのに対し、綿花の買取価格が低すぎるためです。
綿花農家は、まずオーガニック認証を得るために、借金をしてまで大金を支払います。
そうまでしてオーガニック認証を得ても、綿花の買取価格は低く、借金を返すことができません。
それでもオーガニック認証を得ないことには、もっと買取価格が低くなるため、やむをえません。
昨今ではインドの綿花農家は借金のサイクルから抜け出せなくなり、自殺者まで出ているのが現状です。
オーガニック認証はお金で買えるため、農薬を使った綿花でもお金を払えばオーガニック認証を貰えるという実態もあります。
無農薬で綿花を育てるのは、大変な手間と時間を要す作業です。
農薬を使う綿花より、大幅に人件費がかかってきます。
お金のない綿花農家は、人件費節約のため農薬を使わざるをえません。
綿花の栽培には、大量の農薬を使うため、インドの綿花農家たちは深刻な健康被害を被っています。
このようなインドの綿花農家の現状を変えるため、現地NGOでは綿花農家に無農薬で綿花を作って貰うようお願いし、それに見合う正当な対価を綿花農家たちに支払うことで、彼らの生活向上を支援しています。
現地NGOが提携している綿花農家は、ケララ州と北インドの厳選した無農薬綿花農家たちです。
無農薬綿花を紡ぎ、伝統的なアーユルヴェーダ染めの技術で漂白を施した糸
アーユルヴェーダ染めでは、漂白工程にも化学的なものは使わず、アロエベラやヒマシ油などを使う。
ブリーチした糸を乾かす
ブリーチの段階で、既にたくさんのハーブ成分が糸に染み込んでいる。
この糸を、さらに様々なハーブで色付けしていく。
現地NGOは南インドケララ州の機織り産業を守るため発足した団体ですが、綿花農家の生活向上にまで配慮した彼らの活動には、頭が下がる思いでした。
手間がかかる無農薬綿花栽培、技術と手間がかかる手織りの布、ハーブを摘み取るところから始まるアーユルヴェーダ染め。
一枚の布が出来上がるまでに、こんなにも手間と時間がかかっている。
昔の日本人も、こんな風にして一枚の布を作っていたはずです。
現代では、身に纏うものを値段で選びがちです。
その裏で、安価なものには理由がある。
安い安いでたくさんの洋服を買い、数年で捨て、また新しいものを買う。
誰かの犠牲の上に周っている、商業システムなのかもしれません。
布や洋服が大量生産されることで、メリットもたくさんあり、私自身もそのメリットを享受してきました。
その一方で、今の日本では、ここまで手間暇かけて作られた布からできた服や肌着は、もう手に入らなくなりました。
現地NGOの活動は非常にクリーンで、大変感銘を受けるものです。
しかし、そんなことは関係なく、この布が良いものだから、私はこの布が欲しいと思いました。
人助けがしたくて、この布を扱うことに決めたのではありません。
彼らが日本では得られない良いもの、貴重なものを提供してくれるから、購入したい。
そして私自身が、これからは良い志を持った気持ち良く仕事ができる人たちと、自分のペースで気持ち良く仕事をしていきたいと思いました。
そういう作り手たちが集まって作る、洋服や肌着を身にまとっていたい。
ayurclothの活動は、ここからはじまりました。
→2018年ケララ豪雨 現地NGOの活動を聞いて考えさせられた事
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